ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングの記事から

 

ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングの記事でドイツ語の勉強です。

以下の文章は、ノルウェーの左派政治家ビョルナール・モクスネス氏(Moxnes)がサングラスを万引きしたという記事からの引用です。

 

Dabei bewies Moxnes, der sich als Sozialist bezeichnet, in den vergangenen Wochen eine erstaunliche Kreativität beim Erfinden von Ausreden. Gegenüber einer Lokalzeitung erklärte er, es sei «absolut korrekt», dass er das Geschäft mit der Sonnenbrille verlassen habe. Er habe jedoch einfach vergessen, zu bezahlen, was ihm unglaublich peinlich gewesen sei.

 

Norwegen: Chef der Marxisten klaut Sonnenbrille und tritt zurück

 

【第1文】

Dabei bewies Moxnes, der sich als Sozialist bezeichnet, in den vergangenen Wochen eine erstaunliche Kreativität beim Erfinden von Ausreden.

社会主義者を名乗るモクスネスは、先週、言い訳の発明に際して驚くべき創造性を示した」

<文法>

再帰代名詞の位置

主文のときは、定動詞(V2)の直後に置く。

zu不定詞のときは、zu不定詞句の最初に置く。

副文のとき,再帰代名詞は 接続詞 の直後に置く。

という原則があり(Ein Heftiges Heftさんを参考にしました)、ここではderから始まる関係市詞節が副文にあたるので、関係代名詞を接続詞に読み替えて、derの直後に再帰代名詞sichがあることが理解できる。

 

<語句>

dabei:da(そこで) + bei(そばに)  ⇒「そのそばで」という場所の意味から接続語的な意味に変化した。

(1) ⸨空間的⸩ そのそばに; その近く〈場〉に

(2) ⸨時間的⸩ その時に, その際

(3) ⸨接続詞的⸩ そのうえ, さらに; それにもかかわらず

bewies:beweisenの過去形

beweisen::①証明する②示す  weisenも「示す」という意味。"wise"①賢い②(-wiseで副詞をつくる)「~のやり方で」"-wise"は、もともと"way"と同語根で、見た目・態度・習慣・方法を意味する語。西語guisaも同語根で「習慣」を意味する。印欧祖語ではweyd-「見る」にまでさかのぼれる。

sich bezeichnen:自分が~であると名乗る(明かす)

※bezeichnenのzeichnenは、「線を引く/絵を描く」という意味。英語の同根語で表すと、"be-/bei-" + "sign"で、「そばでしるしをつける」というのが原義。

接頭辞be-は、動詞に接続されると、おおまかに以下三種のニュアンスを付加させることになる。

  1. 動詞の接頭辞として、働きかけや状態の変化を表す
  2. 動詞の接頭辞として、目的語に触れていることを表す
  3. 動詞の接頭辞として、目的語について議論したり、言及していることを表す

ここでは、2か3のニュアンスがzeichnenに付け加わっているものと考えられる。

erstauntliche:①驚くべき②驚くべきほど素晴らしい

erstaunen:驚かせる 接頭辞er-を外すと staunenで「驚く」という自動詞の意味になる。英語のstun(ゲーム用語のスタン)とは語源的に無関係だが、"astonish(英)"や" étonner(仏)"と同語根。さらに étonnerはラテン語のextonare(雷を直撃させる、目を眩ませる)から来ており、tonareの部分はマイティ・ソー⚡の語源である、古ノルド語Þórr(トール)とも語根を共有する。

この議員の言い訳の発明は⚡が落ちたときの驚きとおなじくらいの衝撃的な創造性が表れているという皮肉が小気味よい。

 

【第2文】

Gegenüber einer Lokalzeitung erklärte er, es sei «absolut korrekt», dass er das Geschäft mit der Sonnenbrille verlassen habe.

「地方紙に対して彼は、サングラスを持ったまま店を出たことは『全く適切』であると説明した」

gegenüber:[前] ①~に対して②~の反対側に

gegenはゲルマン祖語*gaginにまで遡る。

同根語にagainstがある。この「逆らって」のニュアンスが元になって「逆に⇒戻って⇒見返りに」という派生を遂げて、"to gain"「利益を得る」とも同根であることは、興味深い。

erklärte:erklärenの3人称単数過去形で、「を説明する;明らかにする」

erklärenの目的語は、ここでは、es以下の内容(=彼の発言)にあたる。es sei ~ dass ...と発言内容は接続法第Ⅰで接続法が使われており、その内容が事実であることを引用者は保証しないというニュアンスが伝わる。

verlassen:を去る

 

【第3文】

Er habe jedoch einfach vergessen, zu bezahlen, was ihm unglaublich peinlich gewesen sei.

「しかしながら、単に支払いを忘れただけであって、それは信じがたいほどに恥ずべきことだったと。」

第2文と第3文はピリオドで切れているが、第3文にも接続法が使用されていて、視点人物が依然モクスネス氏なので、彼のストーリー、発言内容は続いている。

<語句>

jedoch:[副]「しかしながら」 je(="ever," "always") + doch(="though")

einfach:[副]「単に」ein-(="one") fach (ラテン語の"pagus"「地方」や英語の"fast"「しっかりとした;揺るがない感情を持った」と同語根)

vergessen("to forget"):「忘れる」西ゲルマン祖語 *fragetan に遡る。fra-(現在のver-)は英語の接頭辞for-に相当し、「遠く離れて;完全に;~ない」のように打消しや強調の意味を与える。getanは英語の"to get"に相当し、「得る」なので、総合して「得るとは遠くかけ離れた状態である」すなわち、「忘れる」という意味になる。

bezahlen("be-/by-"+"tell"):「支払う」 "be-/bei-"  + zahl(数)+ -en(動詞の原形を作る接尾辞) ⇒「そばで数を数える」⇒「(お金を)支払う」同根語に英語のtellやtale(「物語」)がある。ラテン語でもrecount(「(物語を)物語る」)の語根がcount「数える」なので、「数える」ことと「ストーリーを語る」ことは同種のことと見られていた。フランス語のコント(cont)も元は数えるだったのが、raconterで「物語る」となり、ドイツ語でもerzählenで「物語る」となる。Online Eymology Dictionaryによれば、数というよりも、登場人物や出来事を一つずつ順序を追って起承転結をつけて話すことを「物語る」ということの語源としたようである。ちなみにATMを省略せずにいうと、Automatic teller machine(現金自動預け払機)で、tellerは古くは数える者、銀行員を指す名詞で、この場合のto tellは数を数えるの意味。

was ihm unglaublich peinlich gewesen sei:英語で、直訳すると、"what for him incredibly embarrassing been has"となり、「それは、彼にとって信じがたいほど恥ずべきことであった」と訳すことができる。was("what")は関係代名詞で、文の前半を指している。

unglaublich:[形]「信じられない」

※ここでは、次の叙述の形容詞peinlichを修飾する副詞として機能している。

分解すると、un-(打消し) + glaub(en) (「信じる」) + -lich(形容詞を作る接尾辞 "-ic"))

glaubenは「信じる」で、英語のbelieveやleave(許可)、loveと同語源。 ゲルマン祖語*laubijaną「①許す②ほめる」から派生していく中で、

西ゲルマン祖語の    

galaubijan (ga-(集合・強調) + laubijan)

「許す/ほめる」程度がはなはだしいことから「信じる」になったものと考えられる。

 

peinlich:「①痛ましい②[古]刑罰にかかわる③[古]拷問に関係のある④恥ずかしい;狼狽させる;まごつかせる⑤[廃語]獰猛な⑥細かい;気難しい」

Peinはドイツ語で「①拷問;苦悶②痛み」に当たるが、元はラテン語のpoenaから来ていて、さらにこれはギリシャ語 πινη(罰・罰金)からの借用である。ドイツ語で「痛み」はふつうSchmerzenなので注意。

文法、特に語順についてもメモしておく。

Er habe jedoch einfach vergessen, zu bezahlen, was ihm unglaublich peinlich gewesen sei.

ドイツ語の語順の基本は、平叙文の主節であれば、文の2番目に動詞が来ることである(定動詞第2位の法則)。なので、当該文では、habeが定動詞として2番目に来ており、「忘れる」vergesesenの過去分詞vergessenを主節文文末に置くことで、行為の現在完了形(現代口語独文法では、過去形)を作っている。

「を忘れる」の目的語はzu不定詞で「会計することを忘れた」に当たる。 したがって、前半部分は「しかしながら、彼は単に会計を忘れてしまっただけだと言った」となる。主文文末の過去分詞の後に不定詞句はコンマ後を伴って置く。

後半のwas ~ gewesen seiは、関係詞節で、wasは先行詞がものであるときに使用するが、先行詞がなくても「~こと」という意味を持つ。ここでは、前半の文脈自体を指している。関係詞節は副文あたるので、動詞については、「定動詞後置の法則」が適用される。つまり、副文(関係詞節)の末尾に定動詞を置く。ここでは、sein(="to be")の接続法第Ⅰの1人称単数seiが後置され、それよりも後ろには何もおけないので、それにつながる準動詞(gewesen)が定動詞の前に置かれる。

英語では、which had been incredibly embarrassing for him(過去完了)となるが、ドイツ語の間接話法では、接続法第Ⅰと第Ⅱが区別されない。また、英語ではbe動詞の過去完了形は"had been"だが、ドイツ語で完了形を作る際には行為の完了形か、状態の完了形かでhaben かseinを使い分けるため、gewesen habeではなく、gewesen seiとなっている