ステンドグラスと太陽の微笑

… mais soit qu'un rayon eût brillé, soit que mon regard en bougeant eût promené à travers la verrière tour à tour éteinte et rallumée, un mouvant et précieux incendie, l'instant d'après elle avait pris l'éclat changeant d'une traîne de paon, puis elle tremblait et ondulait en une pluie flamboyante et fantastique qui dégouttait du haut de la voûte sombre et rocheuse, le long des parois humides, comme si c'était dans la nef de quelque grotte irisée de sinueuses stalactites que je suivais mes parents, qui portaient leur paroissien; un instant après les petits vitraux en losange avaient pris la transparence profonde, l'infrangible dureté de saphirs qui eussent été juxtaposés sur quelque immense pectoral, mais derrière lesquels on sentait, plus aimé que toutes ces richesses, un sourire momentané de soleil ; il était aussi reconnaissable dans le flot bleu et doux dont il baignait les pierreries que sur le pavé de la place ou la paille du marché ; et, même à nos premiers dimanches quand nous étions arrivés avant Pâques, il me consolait que la terre fût encore nue et noire, en faisant épanouir, comme en un printemps historique et qui datait des successeurs de saint Louis, ce tapis éblouissant et doré de myosotis en verre. (― Marcel Proust, Du côté de chez Swann folio classique pp.59-60)

 

「しかし、一条の光が輝いたからか、それとも、明滅するステンドグラス越しに、私の視線が迷いながらも、絶えず場所を変える貴重な焔を引き連れまわしたからか、次の瞬間、ステンドグラスは、孔雀の尾羽のように玉虫色の光彩を帯びると、暗く、岩だらけの円天井の高みから、湿った内壁に沿って滴り落ちる、フランボワイヤンの(燃え上がる)幻想的な雨の中で震え、波打っていて、祈禱書を持つ両親に付いていくと、そこはまるで曲がりくねった鍾乳石が虹色に輝くどこかの洞窟の身廊の中であるかのようだった。また次の瞬間には、菱形の小さいステンドグラスは、何か大きな胸当てに並べて飾り付けられたサファイアの深い透明度、絶対壊れぬ硬さを帯び、その間にもそのステンドグラスの背後に、ここにあるすべての富よりも愛されるもの、すなわち、太陽の一時の微笑みを私たちは感じていた。微笑みは、太陽が宝石を浸している青く柔らかな波にも、広場の敷石や市場の麦わらの上と同じようにみとめられた。そして、私たちが復活祭よりも早く前に来てしまった日曜日であっても、依然として大地がむき出しで黒々としたさまでありながらも、聖王ルイの後継者たちにさかのぼる歴史的な春のように、ガラスでできたわすれな草の金色の、目が眩むほどの、絨毯を広げているさまを見て、私の心は慰められたのだった」

 

単語・語句:

●soit que S+V, soit que S+V(Vは接続法) :「~にせよ、…にせよ」「~のせいか、あるいは、…のせいか」

●rayon:「光線」

●eût:avoirの接続法・半過去・3人称単数。eût + 過去分詞で接続法大過去を作る。

●brillé:briller(光る、輝く)の過去分詞。現在分詞はbrillant(ブりヨン)

●bouger:「身動きする」ラテン語のbullico「泡を出す」からここではen ~antのジェロンディフの形でeût promenéにかかる。

●promené:promenerの過去分詞。「①を散歩させる②持ち運ぶ」le regard(「視線」)と共起すると、promener le regardで「視線を走らせる」。ここではle regard eût promené incendieとなっており、「視線が(動き回って)焔を連れまわしてしまった(ためか)」ととれる。

●à travers:「~を通して;~を通って」 <trans-(「向こうの」 + vers("-ward")(「方へ」)

●verrière:Grande ouverture orneé de vitraux(ステンド・グラスに飾られた大きな窓)

●tour à tour:「交互に」

●éteinte:éteintdre(「を消す」)の過去分詞。

●rallumée:rallumer(「再び火をつける」)の過去分詞。(< re- + allumer) éteinte とともにverrièreにかかる。

●mouvant:mouvoir(「動かす」)の現在分詞由来の形容詞。「絶えず場所・形状の変わる」

●précieux:"precious" 「貴重な」宝石(pierreries)の比喩を先取りしているか。

●incendie:Grand feu qui se propage en causant des dégât.(Le Robert micro)「火災」①火事、火災(1605)②赤く燃える火(ルソー『エミール』第3巻1762)③戦火、動乱、騒乱(フレシエ『コマンドン枢機卿の生涯』第2巻19章 1671))③激情ラテン語incendium「燃え上がるさま、火、(感情や情熱の)熱情」から借用された。(ロワイアル仏和中辞典 第2版)(https://www.cnrtl.fr/etymologie/incendie)

●l' éclat changeant d' une traîne de paon:「孔雀の尾羽のように玉虫色に変化する光彩」(éclatに①changeant(突然にかつ素早く変化する)②de d'une traîne de paonがそれぞれかかる。英語でいうとchanging glow of a peacock's tail)paon:(発音 パン)「孔雀」『シャルルマーニュの巡礼』(1140頃)マリー・ド・フランス『寓話』(1180頃)(ラフォンテーヌ『寓話』(1668) le geai paré des plumes de paon「借り物(クジャクの羽)で手柄顔するカケス」) ブルネット・ラティー二『宝の書』(13世紀の百科事典)

●tremblait:tremblerの直説法・半過去・3人称単数。「震える」

●ondulait:ondulerの直説法・半過去・3人称単数。「うねる・波打つ」en une pluie flamboyante et fantastique:「燃え盛る幻想的な雨の中で」

●dégouttait:dégoutterの直説法・半過去・3人称単数。「<de>から滴る」「に嫌悪感を催させる」dégoûter( 英語のdisgust)と形が紛らわしいので注意。ûの上のアクサンシルコンフレックスは、元々はûが、usという形で、sがあったことを示す痕跡。une tâcheに対応する英単語はtask。un hôpital(病院)→hospital、une fôret(森)→forest、une bête(獣)→beast、une côte(海岸)→coast、un maître (主人)→master、une île(島)→island。 un château(城)→castle ただし、voûte→vault(円天井)の例外あり。goutteは「水滴」の意。<gutta(L.)は印欧祖語では「注ぐ」*gʰeud-に由来し、"infuse"(注ぎ込む) ,diffuse(撒き散らす), "fundō"(注ぐ), "fondu"(溶けた)などと同根。

●du haut de la voûte sombre et rocheuse:「暗く岩のような円天井の高みから」le long de~:に沿って(= au long de / tout au long de / tout du long de)

●parois:paroiの複数形。

●「①屋内の壁②内壁面③岩壁」comme si S+V:「まるで~のようだ」Vの時制は半過去(「ようだった」の場合は大過去) (英語の"as if ~"に相当)nef:「(教会の)身廊」nave(英)< navire(仏)「船」<navis(羅)「船」 navigate(英)「水先案内する」船の形が教会の身廊に似ていることからか。

●c'était dans la nef …que je suivais…:強調構文 ce est A que B(BなのはAだ)。「私が両親について入っていったのは(教会の)身廊の中だった」

●grotte:洞窟 (< 羅.crypta(地下墓地・地下通路・地下室) <希.κρυπτή(地下室) < krúptō(「隠す」)

●irisée:虹色に輝く

●sinueuse:形容詞sinueuxの女性形単数。「曲がりくねった」sine(正弦)と同根語で、アラビア語のجيب(jayb)を語源とする。

●stalactites:「鍾乳石」ギリシャ語σταλακτόςより 

●suivais:suivreの直説法・半過去・1人称単数。「に追う;付き従う」●paroissien:①キリスト教の教区民②祈禱書 (< 羅.parochia「教区」 < 希.πάροικος「近隣の」< para-(そばに) + oikos(住居))

●vitraux:vitrailの複数形。「①ステンドグラス②(転じて)ステンドグラスの窓」●losange:「菱形」

● la transparence profonde, l'infrangible dureté de saphirs:etで繋がれていない。以下は解釈。①asyndeton(接続詞省略)。流れをetで切りたくなかったので、接続詞etを省略した。だが、弁論術において使われるスピードアップを目的とした意味でのasyndeton(接続詞省略)だとは考えにくい。②コンマによるapposition(同格)。ただし、「深い透明さ」と「壊すことのできぬ硬さ」というサファイアの属性同士の間に同格関係は見いだせない。もし仮に強引にも同格関係を認めてしまうと、カテゴリーミステイクとなる。だが、そこにあるロジックは透明なものは触ることができないゆえ、壊すこともかなわない。その限りおいてその瞬間のステンドグラスは不壊の宝石だということか。

●infrangible:「壊れない」(<in-(打消し) + frang-(<frangibilis 「壊れやすい」※"break "と同根語) + ible(可能を意味する形容詞接尾辞)

● dureté:「硬さ」saphirs:「サファイア;蒼玉」サファイア旧約聖書でいくつか言及されている。「出エジプト記」24:10の、神の足元に造られたサファイアの敷石(platform)のようなものや「エゼキエル書」の「幻視」の中でもサファイアでできた玉座のようなものである。主題の統一性の欠如のために引喩とまではいかないものの、かすかな反響は感じ取れる。

●juxtaposés:juxtaposer(横へ配置する)の過去分詞。(< iuxta-(隣) + poser(置く))iuxta-は、「軛(くびき)で繋がれた」を意味するイタリック祖語の *jougestos (“yoked”),< *jougos (「軛で繋がれた群れ」)から来ている。

●pectoral:「胸の」(< (羅.) pectoralis < pectus(胸)) ここでは、「胸当て」の意。1546 «ornement garni de pierres précieuses que le grand-prêtre des Juifs portait sur la poitrine» (La Bible de l'imprimerie Jehan Girard,(https://www.cnrtl.fr/etymologie/pectoral) ≪史≫「(古代エジプトの王やユダヤの祭司長が身につけた)胸飾り、胸当て」(ロワイアル仏和中辞典 第2版)ここでは、「出エジプト記」のアーロンの裁きの胸当てが暗に言及されている。サファイアも胸当てに並べて取り付けた12個の宝石のひとつ。また、裁きの胸当てを身につけたアーロンが描かれたステンドグラスも実在することから「私」はそれを見て、あるいは、想起しての表現かもしれない。

● derrière:前置詞「の背後に」lesquels:関係代名詞lequelの複数形。前置詞で修飾できる。derrière lesquels(="behind the things-which")で「その背後に」

●sentait:sentirの直説法・半過去・三人称単数。「①匂いを嗅ぐ②を感じる③味わう」

●sourire:「微笑み」

●momentané:「一時的な;ひとときの」

●plus aimé que toutes ces richesses, un sourire momentané de soleil :sentait(感じていた)の目的語で、コンマによる挿入句は後半の「束の間の太陽の微笑」の同格語。aiméは本来はaimer(愛する)の過去分詞だが、(過去分詞由来の)形容詞の名詞相当語句として「愛されるもの」と訳せる。英語でいうと、"more loved (one) than all the richness(treasure)

●"flot:「波;流れ、洪水」doux:「甘い、柔らかい」

●dont:関係代名詞「①その…②それについて③それによって」※ここではflot(波)が先行詞で、dont関係節は「それによって(or その中で)太陽が宝石を入浴させ、浸しているところの」と訳せる。

●baignait:baignerの直説法・半過去・三人称単数。「を入浴させる;を濡らす」

●pierreries:常に複数形で「宝石」

●pavé:「敷石;石畳;舗道」

●paille:「麦藁;藁」●Pâques:「復活祭」pascha(羅)< πάσχα(希)<פֶּסַח(ヘブライ語) 英語ではEaster 元は「過越の祭」●consolait:consolerの直説法・半過去・三人称単数。「を慰める」ここでは主語ilが形式主語で、que以下が意味上の主語となっている。

●terre:「土地;大地」

●fût:être(である)の接続法・半過去・三人称単数

●épanouir:「花が咲く」ここでは使役の動詞faire(AをBにする)のジェロンディフ en faisant + 目的語 + épanouirで「~を咲かせながら」の意。< espandir(古仏)< expandere(羅) 「広げる」expand(英)

●éblouissant:éblouirの現在分詞由来の形容詞。「目をくらませる」esbleuir(古仏) <*exblaudō(中羅)<*blōthijan(フランク語)bloẞ「裸の」と同根語

●datait:daterの直説法・半過去・三人称単数。「にさかのぼる」

●tapis:「絨毯」

doré:「金色の、金箔を貼った」

●myosotis:「わすれな草」